はじめに
プレイヤーのゲームに対する気持ちと考えを如何にして読み解くのかは、ずっと各ゲームメーカーの議論の的になっています。現在使われている方法は、概ねアンケート調査・インタビューあるいはパネルディスカッションなど定量化した市場調査法で進められています。プレイヤーがゲームをした後のゲームに対する評価や満足度はわかりますが、プレイヤーがゲームをしているときの反応については、より直感性のあるツールで測定することが比較的欠けています。しかし、そのほかの産学分野で従来使われている心理生理学(Psychophysiology)なら、あるいは私たちにプレイヤーの考えを読み解くのに適した方法を与えてくれるかもしれません。そこからさらにプレイヤーのユーザーエクスペリエンスを向上することになります。
心理生理学とは
心理生理学は1960年から1970年の間に起こった心理学の一分野です。その理論の基は主に人体から生まれる生理反応シグナルを用いて、メンタルモデルを読み解く手助けとすることです。すなわち、人の体を使って、その人の感情及び心理状態を評価することです。ゲームのテスト及び研究をする担当者に言わせれば、心理生理学は直接プレイヤーの反応からデータを取得する研究の方法であり、アンケートあるいはインタビューなどを通した主観的な方法ではありません。このほか、心理生理学のもう一つの優れた点は、ユーザーの生理シグナルを測定することで、ユーザー自身も感じていない感情や反応を発見でき、尚且つ測定のプロセスを中断しなくてもいい点です。
心理生理学の測定装置
心理生理学の測定装置を紹介する前に、感情と感覚の違いを明らかにする必要があります。現在、多くの研究において、感情と感覚は二つの異なる概念であることが指摘されています。感情は主に身体の心理状態を指し、生理のシグナルを通じて測定できるものです。例えば、心拍数の上昇は身体が興奮状態にあると読み解くことができます。そして、感覚は人体が感知した感情の状態を指しています。言い方を変えれば、人体はある種の感情の状態を生む可能性があるものの、自分がその感情の状態にある事を意識できずにいるのです。心理生理学が測るのは主にこの人体の感情です。
現在、心理生理学で主要な評価ツールの幾つかを以下に紹介します。:
1.脳波図装置(Electroencephalogram 略称:EEG)
脳波図は現在、人体の中枢神経を評価するときに最も簡単に使える測定ツールです。これまで使用されてきた機能的磁気共鳴映像装置(略称FMRI)のように被験者を高価な機器に寝かせてから測定が始まるのとは異なり、被験者の頭に電極を装着することで、脳が発する電波を測定します。主要なものはα波(比較的覚醒状態にある事を示す)、β波(比較的緊張状態にある事を示す)、δ波(睡眠状態にある事を示す)及びθ波(α波よりさらにリラックスした状態にある事を示す)などです。
2. 筋電図装置(Electromyography 略称:EMG)
脳波図と同じく、筋電図も電極を通して人体の筋肉の活動を測定します。例えば、筋肉の緊張やリラックス状態です。中でも顔部筋電図は、被験者の測定プロセスにおける顔部の状態を測るのに役立ち、それが表す感情反応を推測することができます。通常、顔部筋電図が測定する箇所は、1.眉部:皺寄せを測定します。ネガティブな感情を表します。2.頬:主に頬骨の部分です。大笑いあるいは驚きを主に表します。3.目の付近:主に嬉しいあるいは楽しい感情を測定します。
3. 皮膚電位計(Electrodermal Activity 略称:EDA)
皮膚電位計は主に皮膚の電流変化を測定します。それは感情反応の指標でもあります。緊張しているときは、交感神経の活動が強くなり、汗腺の分泌も増えるため、皮膚の導電量の増加を測定できます。通常、皮膚電位計は被験者の二本の指に装着されます。心理生理学測定ツールの中で装着が簡単な上にコストが比較的低い測定ツールでもあり、現在ではうそ発見器への応用がよく知られています。
4. 心拍変動測定(Heart rate Variability 略称:HRV)
心臓が毎分に動く回数を測定することでも人体の感情状態を測ることができます。例えば、怒りあるいは興奮の感情にあるとき、心臓の鼓動は速くなります。現在、市場に心拍を測る機器が多く出回っており、一般的なスポーツ用品店あるいはフィットネス用品店で入手することができます。
5. 呼吸測定(Respiration measurement)
呼吸測定は相対的に簡単及び安価な測定方法で、通常は一本の呼吸測定ガードルを胸に巻きます。同時に心拍数を測定することもできます。一般的に言うと、人体が活動あるいは仕事量が増加したとき、呼吸の回数が増えます。しかし、ある重要あるいは刺激的な動作をする前に、人体は落ち着いた呼吸を保つこともあります。例えば、戦闘あるいは飛行などです。これは刺激的なゲームをするときによく見られます。
ゲームと心理生理学
現在、心理生理学はまだ医学あるいは心理学研究への応用をメインにしています。しかし、最近消費者研究への応用も始まっています。特にソフトウェア及びゲームの開発において、心理生理学はユーザーの心理及び感情を観察することに最良のツールを提供しています。ユーザーの設計に対するフィードバック及び反応の情報を研究者が入手するのをサポートし、開発チームによる製品設計の改善を手助けします。心理生理学の測定手法をゲームのターゲット測定に使うことは二つのメリットがあります。まず、プレイヤーがゲームのプレイを中断することなく、ゲームテストのプロセスにおいてプレイヤーの身体が発するシグナルを測定でき、そのゲームにおける感情の状態を判断することができます。その次に、プレイヤー自身も感知できなかった感情反応を発見できます。最近の研究によると、ユーザーの非自覚感情反応はその使用行為に影響を与えていることが明らかになっています。
このほか、心理生理学の原理を応用して、ゲームの設計をするメーカーも現れ始めています。例えば、脳波図装置のメーカーNeuroSkyはMattel・Uncle Miltonなどの玩具メーカーと協力して、脳波を使うだけでゲームができるおもちゃ「MindFlex」及び「Star Wars Force Trainer」をリリースしています。そのほか、NeuroSkyはゲームメーカーSquare Enixとも協力して、ゲームに応用できる脳波コントローラーを共同で研究開発しています。額につけた測定器が脳波を読み取って、ゲームの操作をすることができるというものです。
結論
心理生理学の技術をゲーム開発に応用することはまだ始まったばかりの段階で、実際の応用においてはまだ多くの困難と問題を克服する必要があります。人体の生理シグナルの読み取りに更に多くの科学研究・検証が必要であり、正確性を確保し、研究者の個人的主観による解釈を避けることや、測定ツールなどの装置はユーザーに対し侵入性があり、電極あるいはその他の装置を体に装着させる必要がある場合、ユーザーの測定プロセスに影響を与える可能性があり、尚且つこれらの測定ツールは依然としてコストが高いことなどが含まれます。しかし、業界がユーザーエクスペリエンスの研究を重視するに伴い、将来、更に多くの資源及び人材がこの分野に投入されること、及びユーザーにとってより快適で便利な測定ツールが続々と登場し、心理生理学をユーザーエクスペリエンス研究に応用する技術も今後成熟していくことが見込まれています。
心理生理学の参考動画
1. THiNK Eye Tracking眼球運動測定器や心理生理学の測定ツールを利用したゲームテスト:
2. マーケティング調査会社Gallup & Robinson心理生理学の測定ツールを応用したテストマーケティング広告:
3. 「Star Wars Force Trainer」紹介動画:
4. 「MindFlex」紹介動画:
————-
筆者について
ガマニアエルゴノミックデザインセンター / Anthony CHEN
ユーザーを中心とした設計UCD(User-Centered Design)をグループのプロジェクトの実行や改善に応用し、ガマニアの自社製品でユーザーが最高に満足していただけるよう取り組んでいる。
————–