(画像ソース:http://thecubiclesurvivalguide.blogspot.com/)
あなたの友達にこういうことを言う人がいるかもしれません。「いいCMの台本を思いついたから見せてあげる。私だったら、○○のCMをこんな風に撮るんだけど。」そしてまじめに尋ねてきます。この台本最高でしょ?
こういう友達が絶賛するCMというのは、たいていユーモアたっぷりで笑えるものです。また、とても「クリエイティブ」なものです。ただし、「クリエイティブには基準が必要で、個人の好みで決まるものではない」ものです。クリエイティブのよしあしを決めるポイントは、「自分には思いもよらなかった、あるいは誰も思いつかなかったというOut of Boxな目のつけ方」ではなく、戦略の中核となるものを一番簡潔で有効に伝えることだと思います。
ですから、独創性のカギは戦略に沿うかどうかであり、独創性そのものではないのです。
優れた独創性の例を挙げましょう。日本の食品会社、日清はトップブランドであるとともに、史上初めてカップヌードルを開発した会社でもあります。1990年代には、カップヌードルを普及させ、インスタント食品の利益を向上させようと、「Hungry? Cup Noodle!」というコミュニケーション戦略を打ち出しました。このシンプルな戦略のもとで、あなたならどうやってクリエイティブに表現するでしょうか?
「残業でお腹をすかせたサラリーマンが熱々のおいしそうな日清カップヌードルを食べる?それとも、食事も惜しんで徹夜でゲームをしている学生が一番手っ取り早い食べ物をほしがっているところに、日清カップヌードルを登場させる?」日清のクリエイティブな表現は、そんな独創性のかけらもないようなものではありません。
荒野のシーンなど誰にも思いつかないでしょう。主人公はまさかの原始人です。はるか昔の文明もなかった時代の物語です。CMの画面に巨大な大昔の鳥が現れ、荒野を駆け回ります。その後ろから手にヤリを持った原始人が奇妙な声を上げながら、鳥を捕まえようと必死で追いかけます。そして崖っぷちの鳥に原始人が追いついたところで、鳥はジャンプします。原始人たちの足は止まらず、鳥の下をくぐり抜けてそのまま崖に飛び出し、さようなら。そこで「Hungry? Cup Noodle!」の字幕が出るのです。
この30秒のCMでは、最後の瞬間のセリフ以外、一言もありません。BGMもなく、一羽の鳥と騒々しい原始人たちが互いの生き残りをかけて必死で走るだけのものです。このCMを見ると、「すばらしい!現代に生まれてよかった。何か食べたいと思ったら、お湯を注いで3分待てば、おいしい日清カップヌードルにありつけるのだから」と思わずにいられません。
この絶妙な独創性は、戦略の伝えたいメッセージが一番率直で、心に深く響くインパクトのある方法で示されています。これこそ、私の言う優れた独創性なのです。
しかし、間違った戦略では優れたアイデアもだめになってしまいます。
同じ独創性を別のインスタントラーメンや食品ブランドに応用すると、同じような効果は得られないかもしれません。なぜなら問題は独創性ではなく、戦略が間違っているからです。「お腹がすいたらXX」という戦略は、トップブランドだからこそ通用するものです。
この戦略を「ナポリピザ」に応用してみると、こんなことになるかもしれません。CMに深く印象づけられた消費者は、ピザを食べたくなります。でも結局電話や店で買うのはPizza Hutということに!なぜなら、消費者の間ではトップブランドが常に優先されるからです。一見通用するような戦略でも、トップ以外のブランドに応用することはできません。オンリーワンの戦略を見出す必要があるのです。
今度誰かに「私のアイデアどう?」と聞かれたら、「それはどんな戦略?」と聞き返すのを忘れずに。それを踏まえて答えるのがプロというものです!
日清カップヌードルのCM:
1993年カンヌ広告祭グランプリ受賞作品
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筆者について
ネットマーケティングオブザーバー Mika
1960年代生まれ。消費財産業のマーケティング分野で数十年の実務経験。
ブランド戦略、商品コンセプトの市販から発表まで携わる。
従来のマーケティングモデルに関心を持ちつつ、Web2.0、ソーシャルメディアの変化にも注目。
ブログ:jabamay.blogspot.com
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