命のないビニールのおもちゃにすぎないバービー人形は10億体も売れただけでなく、半世紀以上もいき続けています!ある時は客室乗務員、ある時は医者、またある時はロックシンガー。常に時代の最先端を歩いてきました。衣装もその都度新しくし、ボーイフレンドのケンとは別れたりひっついたり。2人の恋の行方にはいつもやきもきさせられます。その「人生」の出来事は持ち主より何十倍も色鮮やかなものでしょう。それはすべて製造元のMattelが商品にまつわるストーリーを語ることで創り出した価値なのです。
Mattelは商品に命を吹き込むだけではなく、マーケティングの手法も時代に合わせています。
2004年のバレンタインデーにバービーはなんと43年も付き合ってきたケンとの別れを宣言。オーストラリアのサーファーBlaineがバービーのハートを射止めました。そして今年、ケンはついに沈黙を破ってバービーとやり直すために、インターネットで「みんなの力で彼女の心を取り戻そう-Should Barbie take Kenny back?」というイベントを行いました。
このイベントではネットで投票や書き込みをするほか、人気サイトを大量に動員。Facebook、Twitter、Foursqure、YouTubeが一堂に会し、ケンを後押ししました。
イベントのメインページのデザインはとてもシンプルで、投票システムと投票結果の表示となっています。投票はYesとNoの二択。賛成が多ければメーターが最高レベルの「ケンこそキミのソウルメイト」に近づきます。反対の場合は最悪の「考えるだけ無駄」のどん底へと向かいます。
▲投票結果の表示
ケンのツイッターには製造元マテルのキャンペーンや製品情報は書き込まれません。ケンのバービーへの思いや愛の告白です。またみんなにバービーのツイッターにコメントしてもらったり、大ファンのLAレイカーズの試合やエスクァイア誌最新号についてコメントしたりしています。
またケンはアメリカのソーシャルサイトMatch.comに登録して、自分の趣味や興味、パートナー探しのデータを書き込んでいます。もちろんMatch.comのマッチング結果にはバービーも入っています。
▲ケンのフェイスブックにはたくさんの書き込みが
http://www.facebook.com/OfficialKen#!/OfficialKen?v=wall
そして位置情報サービスのFoursquareでは、ケンとバービーが現実世界のあちこちでチェックインして、現在地の情報を発信しています。例えば、ケンはニューヨークのメトロポリタン美術館からチェックインして「バービーは不滅のアート作品を何時間でも見ていられる。ボクならバービーを何時間でも見ていられる。」とコメントしています。
▲Huluで放送のリアリティー番組
マテルではネットでのバーチャルなイメージ作りのほか、現実世界でも消費者とのコミュニケーションに取り組んでいます。ニューヨークの街角でケンそっくりの男性モデルを使ってケンの様々なキャラクターを演じさせ、マンハッタンで行われたファッションパーティーに参加。そのほかHulu.comではリアリティー番組を放送。Genuine Kenとしてどこにでもいそうな普通の8人を集めました。番組の中では料理やサーフィン、独身アパートのインテリアなどの腕前を披露してもらい、「全米一のボーイフレンド」の称号を争いました。
http://www.hulu.com/genuine-ken-the-search-for-the-great-american-boyfriend
簡単でわかりやすいイベントのメインページからフェイスブック、ツイッターでの告白、ケニーやバービーの足跡をたどるFoursquare、友達と出会えるMatch.com、リアル版ケンのファッションパーティー、そしてベストボーイフレンドを選ぶリアリティー番組まで、すべてがビニール人形の販促のためだとは想像もできません。しかしだからこそ誰もがケンやバービーが命のないおもちゃであることを忘れて、肉体を持った人間として扱い、ウォールやツイッターにも熱心に書き込むのです。
動かないおもちゃが永遠に20歳のままで、動き、音声、映像を組み合わせたオンラインゲームがあれば、もっと簡単に消費者の心に響くイメージを作れるのではないでしょうか?バービーを見ればその答えが見つかるかもしれません!
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筆者について
ネットマーケティングオブザーバー Mika
1960年代生まれ。消費財産業のマーケティング分野で数十年の実務経験。
ブランド戦略、商品コンセプトの市販から発表まで携わる。
従来のマーケティングモデルに関心を持ちつつ、Web2.0、ソーシャルメディアの変化にも注目。
ブログ: jabamay.blogspot.com
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