経験豊富な映画マーケター、そして牽猴子のマーケティングディレクターである王師さんはこれまで、台湾映画界の低迷期の《北極》から、国内映画が再び息を吹き返した後の《翻滾吧!男孩》、《不老騎士》、《總舖師》等を含む、国内外の映画50本を世に送り出しました。その内、ドキュメンタリー映画はこの6年間力を注ぎ、開拓してきた領域で、2013年、王師さんは《天空からの招待状》を台湾のドキュメンタリー映画の頂点へ導きました。
6大マーケティングアイデアで興行収入記録を更新
9千万にのぼる製作コストと筋書きが全くない《天空からの招待状》は、齊柏林監督にとって夢であり、王師さんにとっては負けが許されないが、全く保証の無い大きな賭けでした。二人が最初に会った際、空撮、台湾のドキュメンタリー映画の現状、ナショナルジオグラフィックチャンネルの番組のような映画を観客が見に来るだろうかといった事を話しました。しかし、どう話しても、「上映するか」という最も残酷で現実的な問題に直面せざるをえませんでした。
もし単に問題提起し、社会の影響力を発揮したいというだけなら、李恵仁監督の《不能戳的秘密》のやり方に倣い、全片をYOUTUBEにアップロードすれば、のべ200万人が観賞したように、必ずや人々がテーマに注目するという目標を達成することができます。しかし、王師さんは、マーケティングの力を利用して観客を映画館に向かわせ、理想に満ち溢れる齊柏林監督を金銭的なプレッシャーから解放できないかと考えていました。
提携が決定した後、王師さんはSWOT分析を通じて《天空からの招待状》の強みと弱みをピックアップ。そこからチャンスを見出して、6大マーケティングアイデアを提示し、一歩一歩台湾の人々に《天空からの招待状》を必要とさせました。
▲《天空からの招待状》の映画ポスター。
最初のアイデア戦略は「英雄を創り出す」ことでした。大きな魅力とストーリーを持つ創作者自身を裏方から表舞台へ向わせたのです。英雄の魅力とは、パーフェクトな点ではなく、一生懸命自分を貫く姿にあることから、王師さんは大衆に向けて大胆にも齊柏林さんの弱みをさらけ出すことで、台湾の人々の心をつかんだのです。二つ目のアイデア戦略は、「台湾を代表するストーリーテラーを見つける」こと。呉念真さんは、全ての人々がこの人以外考えられないという人物で、彼は自分の声を通じて、人々を3万メートルの上空から見る台湾の美しさと哀愁の世界へといざない、空撮映画を技術のすごさだけでなく、台湾と土地にぐっと近づき、より人間味と話題性のあるものにしています。三つ目のアイデア戦略は、「大々的な問題提起」です。ドキュメンタリー映画が提示する様々な問題を活用し、各メディアにまたがり、政府、企業、民衆の注目を集めることで、《天空からの招待状》は全く予算をかけずに新聞の一面に掲載されました。四つ目のアイデア戦略は、「感動を生み出す」ことです。馬彼得校長が先住民の子供たちを連れて玉山に登り、手を叩いて歌うというラストで、一種の希望を感じさせ、感動と共感を生みました。のべ50万人がYOUTUBEのメイキング映像を閲覧していることから一目瞭然です。最後の二つのマーケティングアイデアは、現代のテクノロジーの波に乗り、SNSと口コミの力を完璧に利用したことです。
▲ 101の外壁が《天空からの招待状》の宣伝のため2度ライトアップされた。
想像を超えるSNSと口コミの力
時代の変化とともに、マーケティングの思考にも変化がもたらされました。現在真に力のある宣伝には、マスコミを通じてだけでなく、SNSと口コミでの拡大が必要です。王師さんはこう語っています。「マーケティング予算が限られた状況で、彼らはまず1年にわたるマーケティング計画で話題を膨らませ、勢いと格式を高める。そして最終段階で高雄アリーナと中正紀念堂での大型屋外プレミア上映を開催し、これが非常に大きな話題を生むきっかけとなりました。「台湾初の空撮ドキュメンタリー映画」という珍しさだけでなく、最も重要なのは、すべての台湾人にこのドキュメンタリー映画は自分と密接に関係している、自発的にそこに参加したいと思わせたことであり、二つの新しいマーケティング方法「集団投資と貸切戦略」が時運に応じて現れたのです」。
王師は、中正紀念堂の大型屋外プレミア上映のレベルと参加している感覚は投資する価値のあるPR手法だと考えていましたが、その膨大な費用にマーケティングチーム全体が苦境に立たされていました。「集団投資」のアイデアが生まれると、彼らは人々を呼び込み、台湾のためにともに力を出し合い、齊柏林、そして《天空からの招待状》をサポートしようと決意しました。当日の熱気に満ちた様子に、王師さんは深い感動を覚え、このイベントはプレミア上映会の枠を越え、「儀式」となり、人々は信者であり、ただの映画の観客にとどまらないと感じました。そして、ここから口コミの効果が拡大し始め、SNSが力を発揮し、《天空からの招待状》は3ヶ月半というロングラン上映となり、その期間で1千回の貸切公演が行われ、興行収入は2億に達しました。
▲集団投資による《天空からの招待状》の屋外プレミア上映会。合計千人が呼びかけにこたえ、空前の盛況ぶりとなった。
不可能は無い、果敢に挑戦する
王師さんにとって、《天空からの招待状》の成功は1本のドキュメンタリー映画の成功にすぎません。台湾では毎年500作品の映画が上映され、数々の強力な映画に囲まれる中、いかにして台湾のドキュメンタリー映画を突出させ、観客を映画館へ導くかは依然として非常に困難な挑戦です。しかし、意義のあるテーマ、強い思いを持ってそれを貫く創作者を前に、王師さんのあふれる情熱の火は消えず、これからも燃え続けるのです。