1994年の夏、トーマスと同僚が休憩室でくつろいでいると、ジョブズがやって来てベーグルを片手に質問してきました。「世界で最も権力のある人物は誰だと思う? 」トーマスはすぐさまこう答えました。 「南アフリカのマンデラ元大統領!」、するとジョブズは自信たっぷりにこう言いました。「いや!違う!世界で最も権力のある人はストーリーテラーさ。なぜなら彼らは全世代のビジョン、価値観、議題を作ってきたのだから。そしてディズニーがこのキャラクターを独占した。わかるかい?もうたくさんだ !僕が次のストーリーテラーになるんだ!」。そしてベーグルを手に休憩室を出て行きました。ジョブズは最終的にその宣言を実現し、ピクサーを率いて数多くの感動的で影響力のある物語を創造しました。さらにスピーチスキルをアップルのブランド戦略に運用してテクノロジー製品の新たな価値観を形成し、ジョブズのストーリーと共に、アップルの製品によって素晴らしい未来が築かれていきました。
毎回ジョブズが司会を務めるアップル製品の発表会を見ていると、うらやましいと感じませんか。また自分にだっていつも素晴らしいアイデアがあるのに、同僚や上司たちは認めてくれないとも。アイデアを伝えるには、ストーリーを語ることが最も効果的な方法です。影響力のあるストーリーであれば、情報を巧みにその中に組み込むことができるだけでなく、聴衆の興味を刺激して感情とリンクさせることができ、理性やロジックだけを頼りに分析、判断することがなくなります。
素晴らしいストーリーに必要な要素とは
動画製作チームStillmotionによると、人を感動させる物語はキャラクター、シナリオ、目的の3つの基本要素を備えているそうです。 引き続き《G!VOICE》では去年のアメリカのスーパーボウルで最も人気だったコマーシャルDoritos《売られた羊》を例に、素晴らしいストーリーがどのようにして3つの基本要素を示しているか討論していきます。
1. キャラクター設定:ストーリーの主役は必ずしも人である必要はなく、動物でも物でもかまいません。Doritosのコマーシャルの主役はコーンチップスのとりこになった一頭の羊Mooseとその新しい主人です。彼らの面白いやり取りを通じて、視聴者をストーリーのシーンに引き込みます。ストーリーのなかのキャラクターは、視聴者の生活のバックグラウンドと関連していなければなりません。もしストーリーを語る対象が独身男性ならば、妊娠に関するユーモアでは共感を呼ぶことはできませんが、兵役に関する話ならすぐに興味を引きつけることができ、よりストーリーのシチュエーションに馴染めます。
2. シナリオ設定:どのストーリーにもそれぞれの旅のプロセスがあり、通常は現況から幕開けし、続いて突発的な事件によって変化が起こり、それはより素晴らしい未来があるか、或いは落ちぶれるというものかもしれません。Doritosのコマーシャルでは二つの突発的な事件が発生します。主役の男性がコーンチップス好きの羊を買い、一緒にコーンチップスを食べる幸せな時間からスタートします。そして第二の突発的事件はチップスの棚が空っぽになった瞬間で、そこからストーリーはややパニックを帯び、緊張した雰囲気へと変化します。
突発的に起きた事件がもたらす変化が良いものであろうと悪いものであろうと、そこには対立と敵が必要です。敵はどんな形でも構いません。例えば、反対者、研究開発のボトルネック、はたまたおとなしそうな羊など。視聴者は、キャラクターとともに問題に直面し困難を克服する時、自身をキャラクターに投影します。視聴者が次の展開を予想できてしまうと、ストーリーへの興味を失ってしまうため、この旅のプロセスは予測不可能でなければなりません。
▲Disneyのどの映画にも主役の旅のプロセスの障害として、悪役のキャラクターが存在します。
3. 目的:ストーリーを語る前に、なぜこのストーリーを語る必要があるのか、聴衆にとってどんな意義があるのかをはっきりと考えておく必要があります。ピクサーのアニメプロデューサーのAndrew StantonはTEDの公演の中で「1つの素晴らしいストーリーの中には必ず強力なテーマが一貫して存在する」と語っています。Doritosのコマーシャルでは、主役の男性がDoritos好きの1頭の羊を買い、元々おとなしかった羊がかんしゃくを起こします。これには「Doritosの美味しさは、普段やるはずのないことをやってしまうほど」というテーマを取り入れています。皆さんもテーマを一言、数文字で書き出し、スピーチの際にテーマにしっかりと結びつけてみてはいかがでしょう。
スピーチスキルを提案に運用する
ブリーフィングの際に、どうすればストーリーの中にうまく情報を盛り込むことができるのでしょう。実は皆さんが想像するほど難しいことではありません。アメリカの有名なブリーフィングデザイナーのNancy Duarteが多くの偉大なる演説家を分析し、共通する演説方法をまとめました。まず彼らはストーリーを語る方法で現況を説明し、現在直面している問題を討論します。次に、核心的な観点を提示し、そこから生まれる素晴らしい未来を描き出します。この時、聴衆はなぜこの観点を受け入れなければならないのかを考え始めます。そのため、演説者は繰り返し例を挙げる必要があります。より多くの深いストーリーで核心的な観点をサポートし、最終的にはドラマチックに、詩情に満ちた方法でまとめます。スピーチの際は、ボディランゲージやビジュアル映像を多用して聴衆の反応を示唆することもできます。さらに、聴衆の専門レベルに応じて語彙を選ぶことも、ストーリーを語る上で効果的な方法で情報を伝達する助けとなります。
▲聴衆が記憶する情報のうち55%が視覚による伝達で、38%が言葉、7%が文字によるものです。そのため、まずはブリーフィングのスライドにどういった写真、図表を用いるかをレイアウトすることで、ストーリーの素晴らしさと情報の定着度を高めることができます。
生まれながらの優れたストーリーテラーなど存在しません。TED TALKSのどの素晴らしい講演も、背後でプロのチームが講演内容をチェックし、適切なタイミングでスピーチスキルにサポートを提供しています。ストーリーを語る影響力の秘訣を知った後は、絶えず練習と調整を繰り返すだけで、あなたも次のジョブズになれるのです!
参考資料:
http://goo.gl/1dLbbA
http://goo.gl/W9slGD
http://goo.gl/4CyJin
イメージソース:
http://goo.gl/m4mnkc
http://goo.gl/lEW5dB