どなたでもレストランで食事をした経験があるでしょう。ウェイターに席まで案内された後、注文のためのメニューと一杯の水が渡されます。通常、この水は無料です。(台湾で私たちが飲むのは、沸かした水道の水です。アメリカでは、Tap Waterという蛇口から直接流れる生水です。)
一般人からすると、『水』は蛇口をひねればすぐ手に入るもので、それは当たり前のことです。しかし、全世界の5歳以下の子供のうち、5分の1がきれいな水を飲むことができず、それゆえに毎日6000もの尊い命が奪われています。
上述した情報は、実のところ都会に生きる私たちにとって、全く知らないわけではなく、初めて耳にするわけでもありません。ただ、私達の善い考えは、行動に移す前に、すでに他の世の中の事柄に気を取られ、『口先だけで恩恵は届かない』という段階で止まったままになってしまっているのです。
ニューヨークの広告クリエイターDavid Drogaは、これらの子供たちに対しての支援を願い、この問題に対する関心度を高めました。そして、子供たちの飲み水の問題を改善するよう、国連ユニセフ募金への協力を計画しました。問題となるのは、それをどのようにして成し遂げることができるかのことです。
David Drogaは、一つの切り口を考えつきました。世界水の日(World Water Day 毎年3/22)です。この日にユニセフが、いかなる人の所有物でもなく、どこにでも存在するブランド-水を造り出しました。水計画(Tap Project)と呼ばれるものです。普段通り、あなたが食事をしに行くだけで、その計画は成し遂げられることができます。信じられますか。
David Drogaは、ニューヨークにあるレストラン及び政財界の名高い人たちと面談をして、彼らに今回のイベントに参加してもらうようにしました。それらのレストランで、本来は無料で提供される水を、消費者に1ドルで買ってもらう商品とし、この1ドルをユニセフに寄付するようにしました。1ドルで、子供一人に40日間分のきれいな水を提供することができます。また、これらのレストランにも良い評判をもたらすことになります。
もし私がレストランの社長なら、品数を増やす必要もなく参加することができる上、善行にも携われるという一挙両得のイベントに参加しない理由は、全くありません。このようにして、このイベントは迅速に広がり、短期間で500万ドル以上が集まっただけではなく、300を超えるレストランが応じました。多くの有志学生が自作したポスターが、ニューヨークの至る所に貼られ、同時にメディアで広く報道され、著名人も参加しました。最も重要なこととして、この計画は、それ以来ユニセフの毎年のイベントとして、多くの企業の賛助を得、ニューヨークから、全世界にまで広がりました。
▲学生がデザインしたポスター
▲DKNYがTap ProjectでデザインしたTシャツ
このアイデアのユニークな点:
1.このブランドは、いかなる人の所有物でもなく、あなたも登録することができません。それは1つの簡単なLogoをデザインしたのみで、それが瞬く間に価値のあるブランドになりました。ブランド界では、とても珍しいことです。それは、人類が共有する財産を作り出したと言えるでしょう。
2.製品は、すべて人の生活の中にすでに存在しているため、再梱包、製造、輸送は必要ありません。毎日触れ、使用し、どの家庭でも蛇口をひねって水を出すだけで、「製品」が次々と絶え間なく出てきます。私達が思いつかなかったことは、単に概念の転換というだけであって、水も「製品」となることができるのです。
3.この概念に賛同するだけで、どんなレストランでもこのイベントに参加することができます。店の入り口に、1枚の『Tap Project』という紙を貼れば、募金団体の一つになります。活動の真の目的は、多くの募金を集めやすくすることです。
▲店の入り口に張られたステッカー
Tap Projectは2007年に始まり、名実共に国際的に非常に重要な広告の賞を獲得するまでになりました。ユニセフにとって、これはコストが極めて低く、しかし収益の極めて大きなイベント案です。最も簡単で、最も影響力がある方法を用いて、『アイデアは世界を変える』というのがどういうことかを私たちに示しているのです!
写真と動画:ユニセフサイト、YouTube、www.scottandjanuary.com、 idunited.wordpress.com
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筆者について
ネットマーケティングオブザーバー Mika
1960年代生まれ。消費財産業のマーケティング分野で数十年の実務経験。
ブランド戦略、商品コンセプトの市販から発表まで携わる。
従来のマーケティングモデルに関心を持ちつつ、Web2.0、ソーシャルメディアの変化にも注目。
ブログ:jabamay.blogspot.com
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