「丸若屋」がJaime Hayónという人気デザイナーにコラボレーションを持ちかけなかったら、今でも「丸若屋」の三文字を目にすることはなかったでしょう。まして「上出長右衛門窯」という130年の歴史を持つ窯元が誇る匠の精神と食器の文化など知る由もなかったはず。つまり「スター効果」、「コラボレーション」という2つのキーワードは今も十分に通用するということ!特に、これによって「マスコミ報道」に取り上げられることに加えて新しい製品の火種をともすことができれば、それは絶好の投資となります!
このコラボの物語は2009年のTokyo Design Weekにさかのぼります。「丸若屋」の丸若裕俊社長はデザイン週間にスペインの工業デザイナーJaime Hayónと出会いました。Hayónの名声は言うまでもありません。工業デザインのジャンルではPhilippe StarckやKarim Rashidなどの巨匠と肩を並べるデザイン界の風雲児でした。では「丸若屋」とは?2007年創立の「日本の伝統の行方」に取り組むクリエイティブデザイングループです。
Hayónのデザインと日本伝統の焼窯技術を組み合わせた作品を作りたかったと丸若屋の社長は言います。そこでHayónに「上出長右衛門窯」のために「東西のクロスインスピレーション」をテーマにした和食器のデザインを頼みました。Hayónはもともと常識にとらわれない型破りなデザイナーで、これまでに幅広い作品を手がけてきました。インテリア家具、バス用品、スポーツシューズ、キャラクターグッズなど、ライフスタイルに関わる品物には高い関心を寄せていました。さらにこれが日本の伝統工芸との初めてのコラボで、食器を共同で作るということから、このコラボプロジェクトへの参加を快諾しました
続いてHayónは積極的に日本の伝統文化を調べ上げました。食器の模様の意味、日本の食習慣から生活の細部にいたるまで研究を重ね、自ら浅草で懐石料理を味わい、それぞれの食器同士の深い関係の理解に努めました。
こうした考察の後、Hayónは自分のデザインスタイルと細かな伝統焼窯の融合に着手しました。双方による1年間の試行錯誤の末、2010年のTokyo Design Weekで東西のコラボ作品が展示公開されたのです。
これらの食器や茶道具からもHayónのオリジナリティはうかがえます。現代的な曲線、シンプルな外形、あふれ出るメルヘンチックなユーモア。それでいて「上出長右衛門窯」の匠の精神は少しも失われることがありません。食器には繊細な工芸と和の心が満ちているのです。
Jaime Hayón X丸若屋のコラボレーションは成功を収めました。伝統には新たなデザインが吹き込まれ、デザイナーは奥深い文化の底力とすばらしい素材を手に入れました。さらにこのコラボによってよい製品、よい物語が生まれ、伝統工芸の保護の重要性が人々に伝わりました。また世界に「丸若屋」と「上出長右衛門窯」という2つのブランドの名を広めることとなりました。
丸若屋:maru-waka.com/
上出長右衛門窯:www.choemon.com/
▲スペインデザイン界の鬼才Jaime Hayón。
▲Jaime Hayón X丸若屋が「上出長右衛門窯」に新たなインスピレーションを。
▲Jaime Hayón自身の手によるスケッチ。