近頃、ユーザー体験、ユーザー研究というフレーズをよく耳にしますが、どの企業も必ず関連の担当者を数名採用する必要がありそうです。UX/UI デザイナー等の不足は雨後の筍のように次々と現れ、これらの欠員の業務内容は果たして職名と一致しているのか、デザイナーであればきっとよくわかっているはずです。悠識が主催する MIX2015 フォーラムでは、テンセント初の専門インタラクションデザイナーである陳妍氏を招き、テンセントのユーザー体験の発展について、テンセントのような大企業がどのようにして体験デザインを進めているのかシェアして頂きました。
MIX 2015 モバイル体験デザインフォーラム – ユーザーが求めるイノベーション主導型デザイン
開催日:2015/05/15
主催:悠識 UserXper
スピーカー:陳妍氏 / テンセント ユーザー研究及び体験デザイン部部長
テーマ:テンセントにおけるユーザー研究 – 大デジタル時代のユーザー研究イノベーション
十年一剣を磨く
テンセントは、中国で最も早期のインターネットインスタントメッセンジャーソフトの開発業者です。インターネットを通じて人々のライフクオリティを向上させることを使命とし、1999 年に QQ メッセージソフトをリリースして以来、その発展は、中国の数億人のネットユーザーのコミュニケーション方式と生活習慣に影響を与えてきました。 QQ が人と人とを結ぶものとするなら、WeChatは人とサービスをつなぐことを目的とし、便利なプラットホームを提供して、様々な生活機能、社会サービス機能、ビジネスの応用の統合に力を注いでいます。
中国のその他二大企業の主な利益獲得モデルと比較すると、百度は広告、阿里はeコマースを手段とし、テンセントはユーザーの課金で利益を上げた初のインターネット会社です。現在約 10% のユーザーが課金しており、ユーザーの重要性は一目瞭然です。また、ユーザー研究は、テンセントにおいて中核であり、製品にユーザー体験を導入してから既に10年を経ています。そのため、スピーカーの陳妍氏は「十年一剣を磨く」を今回の講演のテーマとしました。
2005 年、テンセントは、可用性テスト実験室を設立し、可用性テストのスタンダードを構築しました。2008 年、ユーザー研究を製品の研究開発と運営の全プロセスに応用し、主に5つのステップに分類しました。
製品企画期:市場の現況、競争他社の製品、ターゲットユーザーの研究
デモ 期:プロトタイプテスト、ビジュアルポジショニング
バージョン発表前:可用性テスト、ユーザーへのデプスインタビュー、視覚反応テスト
バージョン発表後:ユーザー満足度、口コミ調査、後方データ分析
バージョンイテレーションサイクル:新機能研究、ブランド研究、ユーザー流失の分析
特筆すべきは、新らしさとスピードが重要となるインターネット産業において、テンセントは3年を費やして大規模なリファクタリングを行ったことです。ユーザー研究の成果に基づき、より効果的に製品を改善するため、プログラムとデザインのバージョンアップがスムーズに進められるよう、フロント、バックエンドを切り離しました。これは、現在の産業生態において非常にまれで、まさに大きな賭けといえるでしょう。
評価システムとツール、方法のリンク
2012年、テンセントは、よりスピーディーなユーザー研究へと発展させ、人力への依存を減らしました。陳妍部長は以下の実例を挙げ、どのようにして評価システムとツール、方法を結び付けるかについて説明しました。
トレンド分析のオートメーション製品「マイクロトレンド」
製品に対するユーザーの評価を理解するため、当初テンセントは8人のスタッフを投じて毎日ネット上でユーザーの評論を収集していました。ユーザーが増え続ける状況で、人力による負担は日に日に増し、スピーディーかつ自動的に完了できるツールの存在が期待されました。このような背景の下で生まれた製品が「マイクロトレンド」です。これは、クローラを利用して自動的に、ネット上のユーザー評価に関するあらゆる情報を収集し、また、口コミのモニタリング、問題の確定、トレンド分析の三大機能を実現します。
マイクロトレンドは発展を続け、すでに8つのモニタリングチャンネルを展開しています。テンセント微博、新浪微博、Support プラットホーム、App store、MyApp、安智、百度貼吧、オフィシャル掲示板等、百近くのオートメーション口コミ分析製品のサービスを展開し、また、カスタマイズ及びテーマ口込み研究レポートを提供しています。以前リリースしたお年玉サービスでは、マイクロトレンドを通じて個別時間帯の評論の盛り上がりを知ることができます。正月が過ぎて随分経っても、友人間での小額の支払手段とするユーザーがいるといったように、このような情報を把握することで、マッチしたサービスとマーケティング方法を展開することができます。
アンケート調査システム「テンセントアンケート」
ンセントの社員は約2万人を超え、うち 50% 以上がエンジニアです。外部メーカーがニーズを満たすことができない場合、自社開発を考えます。アンケート調査システムのように、自身のニーズに基づいてデザイン、構築する。アンケートプラットホームの統一、よくある問題の標準化、ユーザーデータの蓄積がその利点です。このシステムはすでにユーザーネットワーク計算を構築しており、ユーザー間の関係予測、ユーザーの英語氏名、ニックネームのスマート識別が可能で、システム全体の精度を上げます。
このアンケートシステムは現在90以上の部門で使用されており、7千件に及ぶアンケートが作成され、有効アンケートの回収量は1500万件を超えます。以上のデータから、なぜテンセントが自身によるアンケートシステムの構築を必要とするのかがわかります。興味がある皆さん、テンセントアンケートシステムですでに QQ ユーザーの使用を開放しており、小米、央視でもこのシステムを使用済みです。
オンラインサンプルベース「クラウドトップ」
テンセントユーザーは、中国のネットユーザーの約90%を占め、中国のインターネットユーザーのオンラインサンプルベースにおいて代表的地位を構築しています。これらの真実かつ膨大なリアルタイムのユーザーデータに基づき、かつての第三者の情報購入方法とは異なり、テンセントは、インターネットの行動モニタリングデータベース「クラウドトップ」を生み出しました。ブランド競争パターンに対し、モニタリングに基づいて持続的な評価を行い、変化するトレンドに対し、原因について深く分析します。例えば、ユーザーが1日に各アプリに費やす時間、また、各時間でどのアプリを使用したか時間を知ることができます。これにより、ユーザーの行動とデザイナーの想定が一致しているか、自社製品と他社の製品との違い等を知り、これらに対して持続的な追跡と問題分析を行うことができます。
以上の3種類のツールと方法を応用し、WeChatの春節のお年玉を例に、「マイクロトレンド」で春節のお年玉に対するユーザーの評価とフィードバックを把握し、「アンケート調査システム」でお年玉に対するユーザーの態度を把握。「クラウドトップ」はユーザーのお年玉をめぐる行動の洞察を行い、ユーザーの参加状況、その後の態度、さらにはサーバーが同時刻に対応しなければならない流量まで、トータルで分析します。これらの評価システムとツールを備えることで、テンセントは根拠を持って製品のバージョンインテレーションを続けることができます。毎回決定の際には、ユーザー還元をより広く考慮し、単に個人の経験や紙の理論に頼るのではなく、ユーザー価値を指向としたデザイン理念を真に実現しています。
ユーザー評価を企業KPIに組み込み、製品体験を重点として評価する
一般のインターネット会社が製品部門に対して業績評価を行う際、よく見られる指標として、製品のユーザー実績値、ユーザー利用数、売上高とコストコントロール等があります。テンセントはユーザー体験を重視し、ユーザー総合評価を取り入れています。それぞれ定量研究(テンセント内部アンケート、外部アンケート、マイクロトレンドデータ)と定性研究(実地ユーザーテスト、専門家のウォークスルー、アクセシビリティーテスト)に分けられ、毎年各大事業グループが代表製品を抽出して評価を実施し、その平均指標点数を約 85 点としています。
ユーザー研究の重要性は、ツールと方法に止まらず、社員が認めて初めて企業文化に浸透させることができます。テンセントの新入社員トレーニングでは必ず「ユーザー指向」のカリキュラムがあり、また、全社員が自社の製品を理解できるよう尽力しています。年末の社員総会では、従来の幹部によるスピーチだけでなく、テンセントのクライアント(ユーザー)を招待してシェアしたりと、ユーザーが基本であるという精神を実現しています。
まとめ
一瞬で変化するインターネット時代において、テンセントの製品は Always On Line という特性を備えています。オンラインで終了ではなく、絶えず探究とアップデートを続け、内部開発がスピーディーなデザインを推進。 スピーディーかつエネルギッシュにやりとりできるよう、PM、デザイナー、エンジニア、QA 等の関連スタッフを同じデスクに集結させています。こうして、2ヶ月以内に新製品をリリースすることができ、さらに、ユーザーのフィードバックに基づいて毎週バージョンアップを行い、ビジネス価値とユーザー体験のバランスをとっています。
現在展開中のWeChatを例にとると、リリース時に市場を獲得するため、競争相手のMiTalkよりも早くリリースしなければなりませんでした。開発期間はわずか2ヶ月あまりで、どうして完璧に、そしてユーザーの心を汲み取ることなど可能でしょうか?しかし、テンセントはまずリリースし、それからバージョンアップするという方法を用い、また、ユーザーに、「私たちの製品は現時点では最高のものではないが、次第に良くなる」という考え方を伝えました。まずは市場を獲得し、それからユーザーの定着度を高める。開発期間が短いからといって、ユーザー体験を無視する理由にはなりません。テンセントの経験から、ユーザー体験の実現は、決して一朝一夕で成し遂げられるものではなく、クライアント、企業、社員等、多方面の協力が必要です。 UX を単に口先だけのスローガンではなく、ある種の精神や文化にし、実行するには様々な方法があります。テンセントは規模が大きく資源も豊富ですが、有用なユーザー研究を始めてから、10年の月日を経てやっと今日の制度へと発展し、中国のインターネットの最先端を走り続けることができているのです。
写真元:スピーカーのレポートファイル